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中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

モーパッサンの幽霊譚(世界史レッスン第97回)

2008年01月22日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」にて連載中の「世界史レッスン」第97回目の今日は、「遺体盗掘から殺人へ」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2008/01/post_79d3.html#more
 解剖ブーム?だった17,18世紀には、死体の数が足りなくなり、墓地を荒らして遺体を盗掘する犯罪者たちがはびこるという、負の側面について書きました。

 墓地といえば、モーパッサンの短編『一場の夢』がまっ先に思い出される。「ぼくは彼女を気の狂うほど愛していた」で始まる、切なくも怖い幽霊譚である。

 彼の恋人は、ある嵐の晩、濡れ鼠になって帰宅して以来、肺炎を併発してあっけなく死んでしまった。あきらめきれない彼は、毎日、彼女の墓に通って歎いたが、その日は「夜っぴて彼女の墓に涙を注いで過ごそう」と、そのまま墓地に居残る。
 
 凄まじい夜となった。真夜中を過ぎたころ、墓という墓が動き出し、中から死人が這い出てきたのだ。彼らは一様に自分たちの墓碑銘を読み、それを正しく書き換えはじめる。たとえば次のようにーー
 
 「ここにジャック・オリヴァン眠る。享年51歳。かつてその家族を慈しみ、心優しく、誇り高く、神の恵みのうちに逝けり」を、
 「ここにジャック・オリヴァン眠る。享年51歳。かつて遺産を奪うため父を早死にさせ、妻を虐待し、子どもたちを苦しめ、隣人を騙し、あらゆる放蕩にふけり、あさましき悲惨のなかに死せり」と。

 震える彼の前に、ついに恋人もあらわれる。彼が大理石に彫らせた「彼女は愛し、愛され、そして逝った」という墓碑銘をゆっくり消し、こう書き換えたのだった、「恋人を裏切り、嵐のなか別の男のもとへ行き、風邪をひいて死せり」と・・・

 真実は残酷だ。
 それともこれは、そうとでも思わなければ彼女を諦めきれないと思った彼の無意識がみさせた、まさに「一場の夢」だったのだろうか・・・?

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Unknown (ポンポンダリア)
2013-12-22 19:55:24
面白い話ですね。
こういうの、大好きです。
風邪をひいて死せり・・・なんて皮肉で小気味よい表現でしょう!
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